これは、ベジェ曲線やアドビ イラストレーター(Adobe Illustrator)だけに限ったことではありません。他のソフト、あるいはデジタルでなくアナログでも考え方は同じです。
プロの基準として、もちろん感性も大事ですが、ミスのない確実な仕事が絶対条件だと思います。アマチュアはキラリと光る個性があれば、粗削りで間違っていても大目に見てもらえます。しかしお金を頂くからには極端な話ですが、「センスは良いが間違っている」ものよりも「平凡だけれども間違っていない」ほうが望ましいのです。
ありふれたデザインであろうが、イラストが曲がっていようが、そんな主観的な部分は大した問題にはなりません。なぜなら自分は気に入っていても相手の反応がもう一つだったり、失敗したかなと思っていたのに評判が良かったりすることがあるからです。それよりも数字の桁が違ったり一文字誤植があったほうが問題です。これは致命傷になりかねません。場合によって罰金というパターンも発生します。
実際、いろいろと気を配って作業して、複数の人間でチェックしたにも関わらず、網の目をくぐるようにミスが発生する場合があります。「どんな時でも常に、絶対に間違いなく100%完璧に行う」ことは人間には不可能です。絶対に間違いが起こるという前提で、出来る限り作業に気を使い、チェックもきっちりと行って「限りなくほぼ100%間違いのない仕事」を目指す必要があります。
そして矛盾するようですが、二者択一ならば「センスが良くて間違いがないけれど納期に間に合わなかった」よりも「間違っているが納期に間に合わせた」ほうが遥かにマシです。現物がなくては印刷や放送、チェックが出来なくなります。間違いは後からお詫びと訂正で解決出来なくもありませんが、何もないと完全にお手上げです。自分の理想を追及して無計画に作業している限り、アマチュアの域を越えることは出来ません。仕事には納期が存在するからです。
優先順に並べると「確実に納期を守って間違いのないセンスのある仕事」をすることがプロとしての条件ということになります。納期通りにミスのない仕事を仕上げて、まず信用を確保し、余った時間で自分の感性を上乗せしましょう。
逆に言えば、納期内にしっかりとチェックする時間を確保するために、仕事の能率を上げなければなりません。また実作業の時間を減らすことが出来るならば、アイデアを考えることにもっと時間を使えるようになるのです。
しかし「能率を上げるために作業スピードを速くしよう」と努力しても手の動きには限界があります。疲れで集中力が落ちていると操作ミスを起こすかもしれません。イラストレーターでの作業に関わる「中心点の恐怖」の項(講座2[能率アップ編]-3)や「グループ化」の項(講座2[能率アップ編]-6)でも触れましたが、能率を上げるためのポイントは、
「うっかりミスの発生しにくい作業を心がけ、それを徹底する」
ことです。ミスをして手直しをするよりも確実に仕上げるほうが結果として早くなります。当たり前の単純なことを確実に積み上げているからこそ、品質の高いものが当たり前のように出来上がるというのがプロだと考えています。失敗しないように工夫することは地味なようですが、新しい技術を習得するのと同じぐらい大切だと言うことです。
もちろん、納期ばかりを優先して薄っぺらい仕事をしていると、相手にしてもらえなくなります。イラストレーターやフォトショップといった専用ソフトを使うと素人でも簡単にプロ並の作業ができてしまうからです。感性も最大限注ぎ込みましょう。
[追加]段取り力という本を読みました(今まで読んだ齋藤孝さんの本の中で一番好きです)。 徹底的に無駄を省いていくトヨタの話は、何となく通じるような感じもしましたが、超一流スポーツ選手、特にスピードスケート金メダリスト清水選手の話は読んでいると凄すぎて震えそうでした。そして改めてイチロー選手を人生の師(野球はしないので生き方として)と仰いでしまいました。